2008年07月28日
天使が通り過ぎた(25)~(29)
私が何と答えようかと思案しているうちに、ケンイチさんはぽつぽつと話始めた。
「僕はあまり、何と言うか三便宝、あまり口に出して物事を言わないんです。口下手なのかもしれない。それでいつもいつも、女の子と付き合うようになっても、つまらないわねと言われる。あなたは何を考えているか分からないとか、私のこと好きじゃないのでしょうとか。女っていうのは、いちいち言葉に出して言わないと分かってくれないのでしょうね。」
私はそれについて、何と答えてよいのか分からなかった。それで黙っていた。しばらくの間車は静かに走り続けた威哥王。
「私にはケンイチさんは口下手のようには見えませんが。」
ケンイチさんがかなり長い間次の言葉を言わないので、私は思っていることをそのまま口に出した。
「今まで付き合った数人にそう言われたので、そうなんだろうと思う。」「あなたはあまり話をしないから疲れると。そんなにどうでもいいこと喋ることって重要なのかな三鞭粒。」
私はケンイチさんの言っていることは、分かるような気がした。私自身、同じようなことを通彦から言われたのだから。
「人によるのではないですか。ずっと喋らなくても苦にならないタイプの人と、そうでない人がいて。私は黙っていることが苦にならないのですが、私を振った人は、お前はつまらないと、もっと色々なことを話たかったんだって、そう言っていました威哥王三鞭粒。」
ケンイチさんは相変わらずまっすぐと前を見ていた。運転している最中は絶対横見をしないらしかった。ずっとずっとハンドルの向こう側をじっと見ていた。
「僕は冷たいって言われるんですよ。色々なことを延々と話されて、一体この子は何を言いたかったのかなって思う絶對高潮。で、僕は特にどうともないことを返す。女の子の興味のあることが、僕にとって興味のあることでないのかもしれない。かといって色々な女の子と付き合ったことがないので、そうとも言い切れないのかもしれないけれど。」
ケンイチさんはどういう女の人とお付き合いをしていたのだろうかとふと思った。
「私、この間振られたことで巨人倍増、自分のどこがいけなかったのかを考えてみたりしたんですが」
私は自分で、何でほとんど見ず知らずも同然のケンイチさんにこんなことを話し始めているんだろうと、心の中で思いながら言った。
「結局、自分に自信がないことがいちばんの原因なんではなかったかって。こんなことを話して何て思われるんだろう、とか、こんなことを言ったってつまらないと思われるんだろう、とかって、そういうことを無意識的に思いながら相手の反応に過剰すぎるほど敏感になりすぎて、それで身動きが取れなくなってしまったような気がして金鎖固精丹。」
そうなんだろうか。自分で話していながらもよく分からなかった。
「だから、あまりよく知らない僕には、こんな風に喋れるのかな。」
ケンイチさんの発言にどきっとした。的を得ているのかもしれなかった。
「んー。もしかしたらその通りかもしれません。」
信号付近で少し車が多くなってきた。車が止まってケンイチさんはこちらを見た。
「正直言って、あなたを見たときに、この人は自殺するんじゃないかって思ったんですよ今古通消痛灸。」
「自殺?」
私は訳が分からなかった。
「僕がチェックインしているときに、実は僕もあなたをちらりと見たのです。どこかから帰ってきたみたいだった。そしたら、すごい形相で、なんというか、ひと目で訳ありという感じがしたのです。」
私は昨日散歩から帰ったときの、モーニング姿のケンイチさんをぼんやりと思い出した。だが私が鮮明に思い出したのは、紙袋に入っていた一輪のカーネーションの花だけだった簡約痩身美体。
「女の人がひとりでこんな所まで旅にくるなんて、と思ったのです。あの近くの、1時間ほど山を行ったところに、有名な滝があるんですよ。自殺の名所が。」
ケンイチさんはふざけて言っているのか本気で言っているのか分からなかった。
「私、振られたのは確かなんですが、自殺しようとまでは思わなかったです極速燃脂。」「そんなに悲壮な顔つきをしていたんでしょうか、私は。」
「そしたら、今朝、僕が偶然余計なことをしてしまったんで、あなたはまたひどい気分になってしまったと思う。正直、このまま帰して明日の朝新聞にでも載ったら困ると思いました。」
信号が青になったので、ケンイチさんは顔をまた前に戻した。最後に口角がすこし上がった気がした。やはり冗談なのかもしれない。
「それで私を、こうして送ってくれているのですね火熱痩身。」
それにはケンイチさんは答えなかった。冗談で言っているのかもと思うと、何だかおかしくなって何故か心がほっと緩んだ。
「じゃあ私は、ケンイチさんにコーヒーをこぼされてよかったかもしれないわ。あの雨の中をバスで帰らずに済んだし、そしておいしいコーヒーもご馳走になれたのだから。」
そしてケンイチさんに知り合うこともできた、と言おうかと思ったが、私たちはまだ知り合い惠亭の事後緊急避妊薬、とまで言うほどではないんだと思い、言うのをやめた。「じゃあ僕も、」
ケンイチさんはすこしおどけた風に言った。
「僕もあなたにコーヒーを引っかけてよかったのかな。」
私はすこしどきどきした。それはどういうことだろう。
「どうしてですか?じゃあ私の気を引くために、わざと引っかけたのかしら?」
私はすこし大胆なことを言った。もしかしたら、あなたと会えてよかった、とかそんなことを社交辞令として言うのだろうと思った。
「あなたが自殺せずにすんだから花之欲。」
やはりおどけていた。私は慌てて言った。
「だから私、振られたことは間違いないんですけど、自殺なんかするつもりじゃなかったですってば。」
ケンイチさんはニコニコとして運転をしていた。もしかしたら通彦からの電話のせいで、湿っぽくなった私を見てわざとおどけて明るい気分にしてくれているのかもしれないと思った。
「気をつけて帰ってくださいね。」
ケンイチさんのその言葉で、私ははっとあたりを見回した。周辺の街の様子から、もう駅はすぐ近くの様だった。私は急に、なぜか寂しい気分になった花茶の語。
「本当にありがとうございました。知り合いでもなんでもないのに、こうしてここまで送って頂いて。」
ケンイチさんの車は人の多い駅近くの道路をしばらく走った後、駅前で停まった。交通量が結構あるのでのんびりとしている時間はなさそうだった。
「本当に気をつけて。」
「ありがとうございました。」
同時に二人で挨拶をしながら、荷物と上着を持って車から降りた。私の中で、何か物足りないものを感じたが虎力士、だが私たちは特にアドレスの交換や電話番号のやりとりなどはしなかった。これで、もう二度と会わないのだろう。旅先で会った親切な男性は、穏やかな顔で私を見て、そして私がドアを閉めるとしばらくして発車させた。私はケンイチさんのメタリックブルーの車が、ロータリーを出て見えなくなるまで、ずっと見ていた。
旅行から帰って数週間、私はだいぶ立ち直ることができた紅蜘蛛。毎日の生活のリズムが戻ってくると、また以前と同じように規則的に生活をした。朝起きて小さな会社に出勤して、こじんまりした事務所で仕事をし、夜になると家に帰る。夜になると寂しさが、波のように襲ってくるときもあった。寄りかかることのできる人がいないような、何か心に穴が開いたような、そんな感覚はまだまだあった。季節はどんどん寒くなって、私はますます家に閉じこもることが多くなった。そんな私を見て紅色風暴、友人は遊びに誘ってくれたり、大企業に勤める友達は乗り気でない私を合コンに無理やり引っ張っていった。有難いと思う反面、私はそんな気はさらさらなかった。通彦に言われた言葉は、あのショックの後もっと自分を磨こうという気分にさせたけれども、実際そういう場になると怖気づいている自分もいた。そういう席で交わされている会話は、ちっとも私には楽しめるようなものでは無かった韓国痩身一号。その場の一時的な馬鹿騒ぎとしか思えなかった。私が求めているのはそういうのではなかった。それでいつも、いっそう疲れて家に帰ってきた。
年末になると周囲はクリスマスだとか何とかで華やかな雰囲気に包まれていた。私は相変わらず規則的な毎日と友人に誘われた場合意外は特に活動を活発にするわけでもなく韓国緑素抗脂、静かに生活していた。心の中はだいぶ平静を取り戻していた。通彦のことは、例えば何かの拍子にふと記憶が上のほうに昇ってくることはあっても、日がな一日通彦のことを未練たらしく考えているという状態からは脱していた。ただクリスマスの当日だけはさすがに堪えた。当然友人たちは彼とどこかへ行っているし、私はと言えば家にひっそりといた。あんなことがなければ私も通彦と幸せなひとときを過ごしているかもしれない、そう思った減脂痩身。街中の華やかやイルミネーションは私をげんなりとした気分にさせた。テレビをつけても気が滅入るばかりだった。
母と二人、買って来たケーキを食べていると、家のインターフォンが鳴った。
「香織、何かあなたに荷物が届いているよ。どこ、これ?」
母が玄関から居間に入ってくると、手に宅配便から届けられた荷物を持っていた。私はまったく覚えがなかった。最近通信販売をした記憶もないし、私宛にまさかお歳暮も届くはずは無かった。私は宛名に書いてある送り先住所と氏名を確認した海斯莱福痩身養顔宝。それはあの、通彦に振られた直後に泊まった旅館だった。
「へえ、たった一度宿泊しただけでお歳暮が届くの?たいした旅館だねえ。」
母はもうお歳暮と決めてかかっていたらしく、そんなことを呟いた。私は「まさかそんな。VIP待遇じゃあるまいし。」と言いながら、何が届いたのか見当も付かなかないでいた。しかもあそこに泊まってから随分と日にちが経っているではないか。
「とりあえず開けて見たら果然痩身。」
母に言われ包みを解いてみると包みの中にもう一重包みがされていた。そこには旅館とは違う住所と、名前が書いてあった。名前は、湊 健一と書いてあった。
私は一瞬この人は誰と思ったがすぐにあのケンイチさんだと思い出した。私は勝手に、ケンイチさんの苗字は港という字を書くのだと思い込んでいたのでピンとこなかったのだ。名前を見て、ああ、こういう字を書くのだなあ、とまず思った絶對高潮。住所は東京だったけれども私にはそれが東京のどの辺なのか少しも検討が付かなかった。恐らく埼玉に近いほうの東京と思われた。シンプルな茶色の紙に麻紐のリボンが掛けられた、ややどっしりした包みをそっと開けると、そこにはシュトーレンが入っていた。私はあの日、健一さんが連れて行ってくれたパン工房を思い出した。包みと一緒に白い封筒が入っていて、開けてみるとクリスマスカードだった。白黒の天使の写真だった。カードをめくるとやや斜めに倒れた可采栄潤美白面貼膜、まるで英文の筆記体のような癖のある字でメッセージが書かれていた。あの時のことをお詫びしますと言うことと、つい先日たまたまあちらに出掛けたので、何のお詫びもしていなかったのでこれを代わりに送ったと簡潔に書かれていた。メッセージのいちばん下に、名前とメールアドレスと電話番号が書いてあった。
私が一通り包みを開け、メッセージを読み終わると一緒にいた母が珍しそうにシュトーレンを眺めた可采眼貼膜。
「珍しいパンね。旅館にベーカリーがあるの?」
母には健一さんのことは話していなかった。話すほどのことでもないと思っていたし、あの旅行から帰ったとき、私はまだあまり家族とも口をききたくないという心境で、ざっと旅行の行程と何を食べたかくらいしか話をしていなかった。私は今さら事の顛末を話すのが億劫になり、母が旅館から何か送ってきたと勘違いしているのをいいことに何の説明もしなかった。
「クリスマスのパンよ苦瓜清脂減肥。」
カードだけをさっと抜くと自分の部屋に戻った。私は自分で、何かが静かに動いているのを感じた。あの雨の日と、狭い車からの視界と、静まり返った空間を思い出した。
正直に言えば、あの日メールアドレスも電話番号も聞かずにさらっと別れてきてしまったことを、帰ってきてから少し後悔したのだった。でもそれは、旅で起きた特別な、非日常的なこととして、その後何のしこりもなく忘れ去られてしまうようなものだと思っていた雷克賽爾。しかし、あそこまで壊滅的に打ちのめされていた自分が、旅行から帰って来たとき少し立ち直れたように思えたのは、健一さんと過ごしたほんの僅かな時間も関係しているのではないかと思ってもいた。そのことに対してお礼が言いたかったのだが、私は健一さんに関する情報を何も持っていなかった。確かに、旅館のおかみの知り合いなのだから、その方面から連絡先を知ることもできたのかもしれない。しかし、心のどこかで、あれは旅行中の一過性のハプニングであってその場で終わっておしまいなのだと思っていた力多精。
メールでお礼を入れようとすぐに思い立った。クリスマスイブの日だというのに、私は何の出掛ける用事も無かった。健一さんは、もしかしたら彼女とデート中かもしれない。こんな日だもの、と思いながらメール文を作成しだした。私は携帯メールを打つのが苦手で、ほんの短い文章を打つのにもひどく時間がかかる烈火女催情液。パソコンのメールだったらいいのにと恨めしく思いながら、つかえながら指を動かした。簡潔に、シュトーレンのお礼とあの時はお世話になった旨を打って送信した。もし彼女とデートしている最中でも、メールだったら無視できるだろうと思いながらボタンを押す。
メールを送ると予想に反してすぐに返信が来た。そんなことはないだろうと思っていた私は送信が終わると携帯をカバンの中に放っておいたままにしていた龍虎人丹。カバンの中で携帯は鈍い音を立てて振動していた。もしかしたら健一さんではなく他の友達からのメールかもしれない、と思いながら開いて見ると、やはり健一さんからのメールだった。
メール本文を読んでいくうちに、様々な疑問が頭の中に浮上してきた。最初に私のメールに対するお礼と、お詫びが遅くなったことが書かれていた。次に久しぶりだがあれから元気になったかどうかということが書かれてあった毎粒堅。そしてその次に今日自分はクリスマスイブだというのに仕事で横浜の近くまで来ているのだが、もし香織さんがお暇ならこれから会えないだろうか、ということが書いてあった。
今日、これから会う??
いきなりの提案にまずは驚いてしまった。
どうして?
次にそう思った美国遅時100。
世界中の恋人たちがこの日に会わなければ罰が下されるとでもいうように、この日は会わなければならない日になっているけれども、クリスマスなんて本来日本人には特別でも宗教的でもないし、それによく考えたら恋人もいない者にとっては余計に普通の日と同じではなかろうか。だが、健一さんは今日たまたま仕事で、そしてやはり、世間のこの浮かれ騒ぎの中、一人でいるというのが何となく寂しくなってしまったのだろうか、と思った魔根。
健一さんがどこに住んでいるのかは住所を見て明らかだったが、考えてみたら健一さんはどんな仕事をしていてどこで働いているのかさえ知らなかった。それはそうだ。本名をどう書くかだって今日の今知ったのだから。
私は健一さんが、社交辞令でお会いしようと言っているのか、それとももっと軽い気持ちで言っているのか、それとも意図があって言っているのか、判断ができなかった男露888。だが、そういう気が無かったらわざわざメールの返事に今日お会いしましょう、とは書かないだろう、とも思うし、本当にたまたま近くまで来たから懐かしく(懐かしいというほどの時間一緒にいたわけではないが)思ったのかもしれない。
私は随分と考えてから排毒養顔、メールではなく携帯の電話番号ボタンを押していた。またちまちました字を打つのが嫌だったのと、声を聞いたら真意が分かるかもしれない、と思いついたからだった。だがいちばんの理由は、あの時の声が懐かしくなってしまったからなのだと、自分では認めたくなかったがそう思った。呼出し音は4回鳴った。もしかしたら登録されていない電話番号には出ないのかも、と思い始めた頃「もしもし」という声がした。久しぶりに聞く落ち着いた低いその声は、間違いなく健一さんの声だった。
「もしもし。桜井です。桜井、香織です片仔廣。」
私は健一さんが自分を認識できないかもしれない、と思いフルネームで名前を言った。自分をフルネームで名乗ることなど日常ほとんどないので、それは少し滑稽に響いたように思えた。それにもしかしたらフルネームを言ったところでぴんと来ないかもしれない、とも思った。
「ああ。香織さんですね奇果。」
そんな私の考えは関係なかったかのように、健一さんはまるで普段からよく私と電話をしているみたいに自然な反応で応対した。
「お久しぶりです。今お仕事大丈夫ですか?」
私は久々の、しかもたった一度会っただけの人に電話を掛けているという緊張感で、どうして私はこの人に電話を掛けてしまったのだろうと思った。
「大丈夫ですよ。お元気でしたか強效痩?」
「私は元気です。あの、メール読みました。それで健一さん、今どちらにいらっしゃるんですか?」
私はあの一人旅行をしたときの、健一さんの車に乗った遠い場所を思い出していた。だが今この電話をしている健一さんは、ほんの数駅先の場所にいるようだった。健一さんの話を聞いていると、あの静かな落ち着いた顔が頭に浮かんだ。
「そうですか。」
私はいったい何を確認しようとしているのだろう曲美、と自分で思った。私が言い淀んでいると健一さんが続けて言った。
「香織さん、今日はこんな日でお忙しくないのですか?近くに来たので、もしお暇ならと思って、あんなお誘いをしてしまいましたが。」
私はこの声を聞いて、たった一度しか会ったことのない、しかもほぼ知らないも同然の人であるのに、こんなに懐かしさを感じるのは何故だろうと思った。緊張は健一さんの短い言葉で溶けてしまって、私はまるで旧知の友人に電話をしているような気分になった。
「いえ私も、こんな日なのに暇なのです。お恥ずかしいですが。」
「お恥ずかしい、ですか三便宝。」
言いながら健一さんは笑った。
「では、こんな夜に暇な者同士、久しぶりにお会いしましょうか。7時半にどうでしょうか?」
続けて健一さんは待ち合わせの詳しい場所を言った。
「分かりました。お誘いありがとうございました。」
「こちらこそ。ご丁寧に電話をいただいて。ありがとう。」
少しの間沈黙が漂った。
「じゃあまた、あとで。」
「あとでまた。」
また同時に言った善存片。私の口からは、何となく笑みがこぼれた。
先ほどまでの気分とは裏腹に、こんな日に急に出掛けることが決まった私は、まるでデートに出掛ける前みたいに、浮き立った気分で外出の支度を始めた。すっぴんに近かった化粧をし直し、きちんとマスカラをしてシャドウを塗った。着ていくワンピースにアイロンを掛け皺を伸ばした。何も塗っていない爪をコーティングし、久しぶりに気に入ったピアスを着けた。今日という日が痩身の語、数ある他の日のうちの一日であったなら、さほど気にせずに家を出たのだろう。だが今日はクリスマスイブだった。それでここ数ヶ月引き篭もり同然でいた自分が、久しぶりに外出の楽しみを思い出したようだった。こんなに出掛ける準備を入念にするのは暫くなかったことだった。
「香織、出掛けるの天天素?」
部屋と洗面所を行ったり来たりしている私に、母が声を掛けた。
「そう。友達が急に出てこないかって誘ってきて。」
それだけしか言わなかった。健一さんが友達かどうかはこの際関係なかった。母は下駄箱からロングブーツを出している私を横目で見ながら「そうなの。」と一言だけ言った。姿見で全身をチェックしている私を、母は何も言わず穏やかな顔で眺めていた。何か言いたげだったのだろうが、引き篭もっているよりこんな日に出掛ける娘を健全だと思ったのだろう。玄関を出るとすでに外は暗くなっていて、空気は昼間より一層冷たくなっていた威哥王。だが、私は何となく暖かい気分で満たされていた。
健一さんとの待ち合わせの駅に電車が到着すると、駅前の木樹に施されたイルミネーションが白く輝いているのが見えた。職場から数駅の場所なのだが、家と職場をただ往復するだけの毎日を送っていた最近の私は、この場所のイルミネーションが今年はこれ程華やかになっているとは知らなかった。年々豪華になっている気がする威猛酷哥。
改札前は待ち合わせをする人でごった返していた。こんなに大勢の人の中から、たった一度会ったきりの健一さんを見つけることができるのだろうかと、少々不安になってきた。ざっと見回してもそれらしい人は居なかった。まだ待ち合わせには10分ほどある。人を掻き分けて改札前の端から端までを一回りした。柱の周りで待ち人を探している人達は携帯でメールをチェックしたりきょろきょろとしたりしていた。あちらの柱からこちらの柱に戻ってくると、ひょろりとした背格好の白髪まじりの人を見つけた。健一さんに違いなかった唯美OB蛋白。
私が近づいていくとあと5メートルほどのところで健一さんは私に気が付いた。相変わらず穏やかな顔をしていた。スーツの上にダッフルコートを着ているせいか、この間の時よりもいくらか若く見えた。健一さんと目が合うと何故か照れくさくなって、曖昧な顔をしながらそばに寄っていった。
「こんばんはOB蛋白。」
「こんばんは。」
私たちは同時に挨拶をした。多分、端から見たら私たちは普通のカップルに違いなかった。
「お久しぶりです。シュトーレン、ご馳走様でした。わざわざ送って頂いてありがとうございました。」
健一さんはニコニコとしていた。その顔を見ていると私がここに来るまでに少しだけ抱いていた緊張感は解消していった。
「お元気そうですね。だいぶお詫びが遅くなってしまって、申し訳ありませんでした五便宝。」
ゆっくりと健一さんは言った。
「そんなお詫びなんて。あの時雨の中を送って頂いたし、それにお茶もご馳走になってしまったじゃないですか。」
私は慌てて返した。あの旅行のことが随分と昔のことのように思われ、またほんのこの間のことのようにも思われた。旅行先でいっとき会ったきり、二度と会うこともないと思っていた人を、こうして前にしているのが非現実的な感じがした。
「行きましょうか西班牙蒼蝿粉。」
何となく歩き始めたけれども、こんな日はどこもいっぱいであるに違いなかった。
駅から10分程あるくと外資系のホテルやショッピングモールが並ぶ一角に出るので、そこに向かう大勢の人の流れに混じって歩いた。途中すぐ先に小さな遊園地があり、観覧車がきらきらと光の色を変え点滅させながらゆっくりと回転していた。その横で回転ブランコがイルミネーションの残像を残して流れるように回っている。こんな日は多分若いカップルがたくさんいてはしゃいでいるのだろう。職場から近いこの辺りはよく仕事の帰りに通彦と来たことがあった繊之素。観覧車や乗り物は最初の1,2回はどきどきしながら乗ったけれども、それからはあまり乗り物には乗らず、もっぱら夜景を楽しんだり空いているベンチに腰掛けて海を眺めたりして時間を過ごした。夏の花火大会のときに来たこともある。あの時ももの凄い人でごった返していた。人込みの中を、浴衣を着た私と通彦は手を繋いで歩いた新倍柔情高級人体潤滑剤。うだるような暑さと、慣れない下駄のせいで足が痛くなったのもあり、ロマンティックとは程遠かった。けれども、あの時はそれでもとても幸福だと思っていた。あの頃の通彦は最後の通彦とは違って、もっと柔らかで楽しくてそして優しかった。でもそれは、通彦と別れた秋から、さほど前のことではなかったのだと、考えながら思った。そんな通彦との思い出ばかりがある場所を、健一さんと歩いている、そう考えると何か不思議な心持がした性福三宝。
「すごい人だ。やっぱり今日はね、仕方がないね。」
健一さんはそう呟いて遠くを見た。でも口調とは裏腹になかなか楽しそうな顔付をしていた。
「そうね。クリスマスだから。こういうところ来たくなるんでしょうね。」
今年はこんな場所には縁がないと思っていた。こんな日に、例え女同士でこの辺りを歩いても、それは何だか場違いな感じがしないでもなかった。それに女友達は皆、今日は彼と会っているはずなのだ。
「あの、変なことを聞いてもいいでしょうか野生虫草丸?」
「いいですよ。」
私は軽い気持ちで、思いついたことを特に下心もなく聞いてしまった。
「あの、健一さんは付き合っている方はいないの?つまり・・」
「つまり、こんな日に暇にしているからですか?」
ずばりと健一さんは言った。
「そう、ですね。世間の人はきっと今日はデートで忙しいでしょうから。」
私は言ってから、馬鹿げた質問をしたと思った。
「まあ、別に今日がクリスマスイブだからと、さして関係もないのですが蟻力神。今日が「恋人と会う日」て制定されている訳でもないですしね。」
健一さんはこちらを見ていたずらそうに笑っていた。
「いえ、そういう方がいらっしゃるなら、こんな日に私と会っている場合ではないんではないかと、そう思って。」
「僕はひとりですよ。」「もう随分とね。」
その言葉を聞いてなぜかほっとしてしまった。でもこの時は、ほっとした自分の気持ちに気づいていなかった憂立淨。
「僕はあまり、何と言うか三便宝、あまり口に出して物事を言わないんです。口下手なのかもしれない。それでいつもいつも、女の子と付き合うようになっても、つまらないわねと言われる。あなたは何を考えているか分からないとか、私のこと好きじゃないのでしょうとか。女っていうのは、いちいち言葉に出して言わないと分かってくれないのでしょうね。」
私はそれについて、何と答えてよいのか分からなかった。それで黙っていた。しばらくの間車は静かに走り続けた威哥王。
「私にはケンイチさんは口下手のようには見えませんが。」
ケンイチさんがかなり長い間次の言葉を言わないので、私は思っていることをそのまま口に出した。
「今まで付き合った数人にそう言われたので、そうなんだろうと思う。」「あなたはあまり話をしないから疲れると。そんなにどうでもいいこと喋ることって重要なのかな三鞭粒。」
私はケンイチさんの言っていることは、分かるような気がした。私自身、同じようなことを通彦から言われたのだから。
「人によるのではないですか。ずっと喋らなくても苦にならないタイプの人と、そうでない人がいて。私は黙っていることが苦にならないのですが、私を振った人は、お前はつまらないと、もっと色々なことを話たかったんだって、そう言っていました威哥王三鞭粒。」
ケンイチさんは相変わらずまっすぐと前を見ていた。運転している最中は絶対横見をしないらしかった。ずっとずっとハンドルの向こう側をじっと見ていた。
「僕は冷たいって言われるんですよ。色々なことを延々と話されて、一体この子は何を言いたかったのかなって思う絶對高潮。で、僕は特にどうともないことを返す。女の子の興味のあることが、僕にとって興味のあることでないのかもしれない。かといって色々な女の子と付き合ったことがないので、そうとも言い切れないのかもしれないけれど。」
ケンイチさんはどういう女の人とお付き合いをしていたのだろうかとふと思った。
「私、この間振られたことで巨人倍増、自分のどこがいけなかったのかを考えてみたりしたんですが」
私は自分で、何でほとんど見ず知らずも同然のケンイチさんにこんなことを話し始めているんだろうと、心の中で思いながら言った。
「結局、自分に自信がないことがいちばんの原因なんではなかったかって。こんなことを話して何て思われるんだろう、とか、こんなことを言ったってつまらないと思われるんだろう、とかって、そういうことを無意識的に思いながら相手の反応に過剰すぎるほど敏感になりすぎて、それで身動きが取れなくなってしまったような気がして金鎖固精丹。」
そうなんだろうか。自分で話していながらもよく分からなかった。
「だから、あまりよく知らない僕には、こんな風に喋れるのかな。」
ケンイチさんの発言にどきっとした。的を得ているのかもしれなかった。
「んー。もしかしたらその通りかもしれません。」
信号付近で少し車が多くなってきた。車が止まってケンイチさんはこちらを見た。
「正直言って、あなたを見たときに、この人は自殺するんじゃないかって思ったんですよ今古通消痛灸。」
「自殺?」
私は訳が分からなかった。
「僕がチェックインしているときに、実は僕もあなたをちらりと見たのです。どこかから帰ってきたみたいだった。そしたら、すごい形相で、なんというか、ひと目で訳ありという感じがしたのです。」
私は昨日散歩から帰ったときの、モーニング姿のケンイチさんをぼんやりと思い出した。だが私が鮮明に思い出したのは、紙袋に入っていた一輪のカーネーションの花だけだった簡約痩身美体。
「女の人がひとりでこんな所まで旅にくるなんて、と思ったのです。あの近くの、1時間ほど山を行ったところに、有名な滝があるんですよ。自殺の名所が。」
ケンイチさんはふざけて言っているのか本気で言っているのか分からなかった。
「私、振られたのは確かなんですが、自殺しようとまでは思わなかったです極速燃脂。」「そんなに悲壮な顔つきをしていたんでしょうか、私は。」
「そしたら、今朝、僕が偶然余計なことをしてしまったんで、あなたはまたひどい気分になってしまったと思う。正直、このまま帰して明日の朝新聞にでも載ったら困ると思いました。」
信号が青になったので、ケンイチさんは顔をまた前に戻した。最後に口角がすこし上がった気がした。やはり冗談なのかもしれない。
「それで私を、こうして送ってくれているのですね火熱痩身。」
それにはケンイチさんは答えなかった。冗談で言っているのかもと思うと、何だかおかしくなって何故か心がほっと緩んだ。
「じゃあ私は、ケンイチさんにコーヒーをこぼされてよかったかもしれないわ。あの雨の中をバスで帰らずに済んだし、そしておいしいコーヒーもご馳走になれたのだから。」
そしてケンイチさんに知り合うこともできた、と言おうかと思ったが、私たちはまだ知り合い惠亭の事後緊急避妊薬、とまで言うほどではないんだと思い、言うのをやめた。「じゃあ僕も、」
ケンイチさんはすこしおどけた風に言った。
「僕もあなたにコーヒーを引っかけてよかったのかな。」
私はすこしどきどきした。それはどういうことだろう。
「どうしてですか?じゃあ私の気を引くために、わざと引っかけたのかしら?」
私はすこし大胆なことを言った。もしかしたら、あなたと会えてよかった、とかそんなことを社交辞令として言うのだろうと思った。
「あなたが自殺せずにすんだから花之欲。」
やはりおどけていた。私は慌てて言った。
「だから私、振られたことは間違いないんですけど、自殺なんかするつもりじゃなかったですってば。」
ケンイチさんはニコニコとして運転をしていた。もしかしたら通彦からの電話のせいで、湿っぽくなった私を見てわざとおどけて明るい気分にしてくれているのかもしれないと思った。
「気をつけて帰ってくださいね。」
ケンイチさんのその言葉で、私ははっとあたりを見回した。周辺の街の様子から、もう駅はすぐ近くの様だった。私は急に、なぜか寂しい気分になった花茶の語。
「本当にありがとうございました。知り合いでもなんでもないのに、こうしてここまで送って頂いて。」
ケンイチさんの車は人の多い駅近くの道路をしばらく走った後、駅前で停まった。交通量が結構あるのでのんびりとしている時間はなさそうだった。
「本当に気をつけて。」
「ありがとうございました。」
同時に二人で挨拶をしながら、荷物と上着を持って車から降りた。私の中で、何か物足りないものを感じたが虎力士、だが私たちは特にアドレスの交換や電話番号のやりとりなどはしなかった。これで、もう二度と会わないのだろう。旅先で会った親切な男性は、穏やかな顔で私を見て、そして私がドアを閉めるとしばらくして発車させた。私はケンイチさんのメタリックブルーの車が、ロータリーを出て見えなくなるまで、ずっと見ていた。
旅行から帰って数週間、私はだいぶ立ち直ることができた紅蜘蛛。毎日の生活のリズムが戻ってくると、また以前と同じように規則的に生活をした。朝起きて小さな会社に出勤して、こじんまりした事務所で仕事をし、夜になると家に帰る。夜になると寂しさが、波のように襲ってくるときもあった。寄りかかることのできる人がいないような、何か心に穴が開いたような、そんな感覚はまだまだあった。季節はどんどん寒くなって、私はますます家に閉じこもることが多くなった。そんな私を見て紅色風暴、友人は遊びに誘ってくれたり、大企業に勤める友達は乗り気でない私を合コンに無理やり引っ張っていった。有難いと思う反面、私はそんな気はさらさらなかった。通彦に言われた言葉は、あのショックの後もっと自分を磨こうという気分にさせたけれども、実際そういう場になると怖気づいている自分もいた。そういう席で交わされている会話は、ちっとも私には楽しめるようなものでは無かった韓国痩身一号。その場の一時的な馬鹿騒ぎとしか思えなかった。私が求めているのはそういうのではなかった。それでいつも、いっそう疲れて家に帰ってきた。
年末になると周囲はクリスマスだとか何とかで華やかな雰囲気に包まれていた。私は相変わらず規則的な毎日と友人に誘われた場合意外は特に活動を活発にするわけでもなく韓国緑素抗脂、静かに生活していた。心の中はだいぶ平静を取り戻していた。通彦のことは、例えば何かの拍子にふと記憶が上のほうに昇ってくることはあっても、日がな一日通彦のことを未練たらしく考えているという状態からは脱していた。ただクリスマスの当日だけはさすがに堪えた。当然友人たちは彼とどこかへ行っているし、私はと言えば家にひっそりといた。あんなことがなければ私も通彦と幸せなひとときを過ごしているかもしれない、そう思った減脂痩身。街中の華やかやイルミネーションは私をげんなりとした気分にさせた。テレビをつけても気が滅入るばかりだった。
母と二人、買って来たケーキを食べていると、家のインターフォンが鳴った。
「香織、何かあなたに荷物が届いているよ。どこ、これ?」
母が玄関から居間に入ってくると、手に宅配便から届けられた荷物を持っていた。私はまったく覚えがなかった。最近通信販売をした記憶もないし、私宛にまさかお歳暮も届くはずは無かった。私は宛名に書いてある送り先住所と氏名を確認した海斯莱福痩身養顔宝。それはあの、通彦に振られた直後に泊まった旅館だった。
「へえ、たった一度宿泊しただけでお歳暮が届くの?たいした旅館だねえ。」
母はもうお歳暮と決めてかかっていたらしく、そんなことを呟いた。私は「まさかそんな。VIP待遇じゃあるまいし。」と言いながら、何が届いたのか見当も付かなかないでいた。しかもあそこに泊まってから随分と日にちが経っているではないか。
「とりあえず開けて見たら果然痩身。」
母に言われ包みを解いてみると包みの中にもう一重包みがされていた。そこには旅館とは違う住所と、名前が書いてあった。名前は、湊 健一と書いてあった。
私は一瞬この人は誰と思ったがすぐにあのケンイチさんだと思い出した。私は勝手に、ケンイチさんの苗字は港という字を書くのだと思い込んでいたのでピンとこなかったのだ。名前を見て、ああ、こういう字を書くのだなあ、とまず思った絶對高潮。住所は東京だったけれども私にはそれが東京のどの辺なのか少しも検討が付かなかった。恐らく埼玉に近いほうの東京と思われた。シンプルな茶色の紙に麻紐のリボンが掛けられた、ややどっしりした包みをそっと開けると、そこにはシュトーレンが入っていた。私はあの日、健一さんが連れて行ってくれたパン工房を思い出した。包みと一緒に白い封筒が入っていて、開けてみるとクリスマスカードだった。白黒の天使の写真だった。カードをめくるとやや斜めに倒れた可采栄潤美白面貼膜、まるで英文の筆記体のような癖のある字でメッセージが書かれていた。あの時のことをお詫びしますと言うことと、つい先日たまたまあちらに出掛けたので、何のお詫びもしていなかったのでこれを代わりに送ったと簡潔に書かれていた。メッセージのいちばん下に、名前とメールアドレスと電話番号が書いてあった。
私が一通り包みを開け、メッセージを読み終わると一緒にいた母が珍しそうにシュトーレンを眺めた可采眼貼膜。
「珍しいパンね。旅館にベーカリーがあるの?」
母には健一さんのことは話していなかった。話すほどのことでもないと思っていたし、あの旅行から帰ったとき、私はまだあまり家族とも口をききたくないという心境で、ざっと旅行の行程と何を食べたかくらいしか話をしていなかった。私は今さら事の顛末を話すのが億劫になり、母が旅館から何か送ってきたと勘違いしているのをいいことに何の説明もしなかった。
「クリスマスのパンよ苦瓜清脂減肥。」
カードだけをさっと抜くと自分の部屋に戻った。私は自分で、何かが静かに動いているのを感じた。あの雨の日と、狭い車からの視界と、静まり返った空間を思い出した。
正直に言えば、あの日メールアドレスも電話番号も聞かずにさらっと別れてきてしまったことを、帰ってきてから少し後悔したのだった。でもそれは、旅で起きた特別な、非日常的なこととして、その後何のしこりもなく忘れ去られてしまうようなものだと思っていた雷克賽爾。しかし、あそこまで壊滅的に打ちのめされていた自分が、旅行から帰って来たとき少し立ち直れたように思えたのは、健一さんと過ごしたほんの僅かな時間も関係しているのではないかと思ってもいた。そのことに対してお礼が言いたかったのだが、私は健一さんに関する情報を何も持っていなかった。確かに、旅館のおかみの知り合いなのだから、その方面から連絡先を知ることもできたのかもしれない。しかし、心のどこかで、あれは旅行中の一過性のハプニングであってその場で終わっておしまいなのだと思っていた力多精。
メールでお礼を入れようとすぐに思い立った。クリスマスイブの日だというのに、私は何の出掛ける用事も無かった。健一さんは、もしかしたら彼女とデート中かもしれない。こんな日だもの、と思いながらメール文を作成しだした。私は携帯メールを打つのが苦手で、ほんの短い文章を打つのにもひどく時間がかかる烈火女催情液。パソコンのメールだったらいいのにと恨めしく思いながら、つかえながら指を動かした。簡潔に、シュトーレンのお礼とあの時はお世話になった旨を打って送信した。もし彼女とデートしている最中でも、メールだったら無視できるだろうと思いながらボタンを押す。
メールを送ると予想に反してすぐに返信が来た。そんなことはないだろうと思っていた私は送信が終わると携帯をカバンの中に放っておいたままにしていた龍虎人丹。カバンの中で携帯は鈍い音を立てて振動していた。もしかしたら健一さんではなく他の友達からのメールかもしれない、と思いながら開いて見ると、やはり健一さんからのメールだった。
メール本文を読んでいくうちに、様々な疑問が頭の中に浮上してきた。最初に私のメールに対するお礼と、お詫びが遅くなったことが書かれていた。次に久しぶりだがあれから元気になったかどうかということが書かれてあった毎粒堅。そしてその次に今日自分はクリスマスイブだというのに仕事で横浜の近くまで来ているのだが、もし香織さんがお暇ならこれから会えないだろうか、ということが書いてあった。
今日、これから会う??
いきなりの提案にまずは驚いてしまった。
どうして?
次にそう思った美国遅時100。
世界中の恋人たちがこの日に会わなければ罰が下されるとでもいうように、この日は会わなければならない日になっているけれども、クリスマスなんて本来日本人には特別でも宗教的でもないし、それによく考えたら恋人もいない者にとっては余計に普通の日と同じではなかろうか。だが、健一さんは今日たまたま仕事で、そしてやはり、世間のこの浮かれ騒ぎの中、一人でいるというのが何となく寂しくなってしまったのだろうか、と思った魔根。
健一さんがどこに住んでいるのかは住所を見て明らかだったが、考えてみたら健一さんはどんな仕事をしていてどこで働いているのかさえ知らなかった。それはそうだ。本名をどう書くかだって今日の今知ったのだから。
私は健一さんが、社交辞令でお会いしようと言っているのか、それとももっと軽い気持ちで言っているのか、それとも意図があって言っているのか、判断ができなかった男露888。だが、そういう気が無かったらわざわざメールの返事に今日お会いしましょう、とは書かないだろう、とも思うし、本当にたまたま近くまで来たから懐かしく(懐かしいというほどの時間一緒にいたわけではないが)思ったのかもしれない。
私は随分と考えてから排毒養顔、メールではなく携帯の電話番号ボタンを押していた。またちまちました字を打つのが嫌だったのと、声を聞いたら真意が分かるかもしれない、と思いついたからだった。だがいちばんの理由は、あの時の声が懐かしくなってしまったからなのだと、自分では認めたくなかったがそう思った。呼出し音は4回鳴った。もしかしたら登録されていない電話番号には出ないのかも、と思い始めた頃「もしもし」という声がした。久しぶりに聞く落ち着いた低いその声は、間違いなく健一さんの声だった。
「もしもし。桜井です。桜井、香織です片仔廣。」
私は健一さんが自分を認識できないかもしれない、と思いフルネームで名前を言った。自分をフルネームで名乗ることなど日常ほとんどないので、それは少し滑稽に響いたように思えた。それにもしかしたらフルネームを言ったところでぴんと来ないかもしれない、とも思った。
「ああ。香織さんですね奇果。」
そんな私の考えは関係なかったかのように、健一さんはまるで普段からよく私と電話をしているみたいに自然な反応で応対した。
「お久しぶりです。今お仕事大丈夫ですか?」
私は久々の、しかもたった一度会っただけの人に電話を掛けているという緊張感で、どうして私はこの人に電話を掛けてしまったのだろうと思った。
「大丈夫ですよ。お元気でしたか強效痩?」
「私は元気です。あの、メール読みました。それで健一さん、今どちらにいらっしゃるんですか?」
私はあの一人旅行をしたときの、健一さんの車に乗った遠い場所を思い出していた。だが今この電話をしている健一さんは、ほんの数駅先の場所にいるようだった。健一さんの話を聞いていると、あの静かな落ち着いた顔が頭に浮かんだ。
「そうですか。」
私はいったい何を確認しようとしているのだろう曲美、と自分で思った。私が言い淀んでいると健一さんが続けて言った。
「香織さん、今日はこんな日でお忙しくないのですか?近くに来たので、もしお暇ならと思って、あんなお誘いをしてしまいましたが。」
私はこの声を聞いて、たった一度しか会ったことのない、しかもほぼ知らないも同然の人であるのに、こんなに懐かしさを感じるのは何故だろうと思った。緊張は健一さんの短い言葉で溶けてしまって、私はまるで旧知の友人に電話をしているような気分になった。
「いえ私も、こんな日なのに暇なのです。お恥ずかしいですが。」
「お恥ずかしい、ですか三便宝。」
言いながら健一さんは笑った。
「では、こんな夜に暇な者同士、久しぶりにお会いしましょうか。7時半にどうでしょうか?」
続けて健一さんは待ち合わせの詳しい場所を言った。
「分かりました。お誘いありがとうございました。」
「こちらこそ。ご丁寧に電話をいただいて。ありがとう。」
少しの間沈黙が漂った。
「じゃあまた、あとで。」
「あとでまた。」
また同時に言った善存片。私の口からは、何となく笑みがこぼれた。
先ほどまでの気分とは裏腹に、こんな日に急に出掛けることが決まった私は、まるでデートに出掛ける前みたいに、浮き立った気分で外出の支度を始めた。すっぴんに近かった化粧をし直し、きちんとマスカラをしてシャドウを塗った。着ていくワンピースにアイロンを掛け皺を伸ばした。何も塗っていない爪をコーティングし、久しぶりに気に入ったピアスを着けた。今日という日が痩身の語、数ある他の日のうちの一日であったなら、さほど気にせずに家を出たのだろう。だが今日はクリスマスイブだった。それでここ数ヶ月引き篭もり同然でいた自分が、久しぶりに外出の楽しみを思い出したようだった。こんなに出掛ける準備を入念にするのは暫くなかったことだった。
「香織、出掛けるの天天素?」
部屋と洗面所を行ったり来たりしている私に、母が声を掛けた。
「そう。友達が急に出てこないかって誘ってきて。」
それだけしか言わなかった。健一さんが友達かどうかはこの際関係なかった。母は下駄箱からロングブーツを出している私を横目で見ながら「そうなの。」と一言だけ言った。姿見で全身をチェックしている私を、母は何も言わず穏やかな顔で眺めていた。何か言いたげだったのだろうが、引き篭もっているよりこんな日に出掛ける娘を健全だと思ったのだろう。玄関を出るとすでに外は暗くなっていて、空気は昼間より一層冷たくなっていた威哥王。だが、私は何となく暖かい気分で満たされていた。
健一さんとの待ち合わせの駅に電車が到着すると、駅前の木樹に施されたイルミネーションが白く輝いているのが見えた。職場から数駅の場所なのだが、家と職場をただ往復するだけの毎日を送っていた最近の私は、この場所のイルミネーションが今年はこれ程華やかになっているとは知らなかった。年々豪華になっている気がする威猛酷哥。
改札前は待ち合わせをする人でごった返していた。こんなに大勢の人の中から、たった一度会ったきりの健一さんを見つけることができるのだろうかと、少々不安になってきた。ざっと見回してもそれらしい人は居なかった。まだ待ち合わせには10分ほどある。人を掻き分けて改札前の端から端までを一回りした。柱の周りで待ち人を探している人達は携帯でメールをチェックしたりきょろきょろとしたりしていた。あちらの柱からこちらの柱に戻ってくると、ひょろりとした背格好の白髪まじりの人を見つけた。健一さんに違いなかった唯美OB蛋白。
私が近づいていくとあと5メートルほどのところで健一さんは私に気が付いた。相変わらず穏やかな顔をしていた。スーツの上にダッフルコートを着ているせいか、この間の時よりもいくらか若く見えた。健一さんと目が合うと何故か照れくさくなって、曖昧な顔をしながらそばに寄っていった。
「こんばんはOB蛋白。」
「こんばんは。」
私たちは同時に挨拶をした。多分、端から見たら私たちは普通のカップルに違いなかった。
「お久しぶりです。シュトーレン、ご馳走様でした。わざわざ送って頂いてありがとうございました。」
健一さんはニコニコとしていた。その顔を見ていると私がここに来るまでに少しだけ抱いていた緊張感は解消していった。
「お元気そうですね。だいぶお詫びが遅くなってしまって、申し訳ありませんでした五便宝。」
ゆっくりと健一さんは言った。
「そんなお詫びなんて。あの時雨の中を送って頂いたし、それにお茶もご馳走になってしまったじゃないですか。」
私は慌てて返した。あの旅行のことが随分と昔のことのように思われ、またほんのこの間のことのようにも思われた。旅行先でいっとき会ったきり、二度と会うこともないと思っていた人を、こうして前にしているのが非現実的な感じがした。
「行きましょうか西班牙蒼蝿粉。」
何となく歩き始めたけれども、こんな日はどこもいっぱいであるに違いなかった。
駅から10分程あるくと外資系のホテルやショッピングモールが並ぶ一角に出るので、そこに向かう大勢の人の流れに混じって歩いた。途中すぐ先に小さな遊園地があり、観覧車がきらきらと光の色を変え点滅させながらゆっくりと回転していた。その横で回転ブランコがイルミネーションの残像を残して流れるように回っている。こんな日は多分若いカップルがたくさんいてはしゃいでいるのだろう。職場から近いこの辺りはよく仕事の帰りに通彦と来たことがあった繊之素。観覧車や乗り物は最初の1,2回はどきどきしながら乗ったけれども、それからはあまり乗り物には乗らず、もっぱら夜景を楽しんだり空いているベンチに腰掛けて海を眺めたりして時間を過ごした。夏の花火大会のときに来たこともある。あの時ももの凄い人でごった返していた。人込みの中を、浴衣を着た私と通彦は手を繋いで歩いた新倍柔情高級人体潤滑剤。うだるような暑さと、慣れない下駄のせいで足が痛くなったのもあり、ロマンティックとは程遠かった。けれども、あの時はそれでもとても幸福だと思っていた。あの頃の通彦は最後の通彦とは違って、もっと柔らかで楽しくてそして優しかった。でもそれは、通彦と別れた秋から、さほど前のことではなかったのだと、考えながら思った。そんな通彦との思い出ばかりがある場所を、健一さんと歩いている、そう考えると何か不思議な心持がした性福三宝。
「すごい人だ。やっぱり今日はね、仕方がないね。」
健一さんはそう呟いて遠くを見た。でも口調とは裏腹になかなか楽しそうな顔付をしていた。
「そうね。クリスマスだから。こういうところ来たくなるんでしょうね。」
今年はこんな場所には縁がないと思っていた。こんな日に、例え女同士でこの辺りを歩いても、それは何だか場違いな感じがしないでもなかった。それに女友達は皆、今日は彼と会っているはずなのだ。
「あの、変なことを聞いてもいいでしょうか野生虫草丸?」
「いいですよ。」
私は軽い気持ちで、思いついたことを特に下心もなく聞いてしまった。
「あの、健一さんは付き合っている方はいないの?つまり・・」
「つまり、こんな日に暇にしているからですか?」
ずばりと健一さんは言った。
「そう、ですね。世間の人はきっと今日はデートで忙しいでしょうから。」
私は言ってから、馬鹿げた質問をしたと思った。
「まあ、別に今日がクリスマスイブだからと、さして関係もないのですが蟻力神。今日が「恋人と会う日」て制定されている訳でもないですしね。」
健一さんはこちらを見ていたずらそうに笑っていた。
「いえ、そういう方がいらっしゃるなら、こんな日に私と会っている場合ではないんではないかと、そう思って。」
「僕はひとりですよ。」「もう随分とね。」
その言葉を聞いてなぜかほっとしてしまった。でもこの時は、ほっとした自分の気持ちに気づいていなかった憂立淨。
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